14.3 和の近似
残念ながら、常に総和を閉形式で表せるとは限らない。例えば、次の総和の閉形式は知られていない:
こういった総和の大きさを議論するには、近似を使わなければならない。良いニュースがある: 様々な総和の上界または下界となる閉じた式を見つけるための一般的な手法が存在する。さらに、この手法は簡単で覚えやすい。総和を積分で置き換え、総和の最初または最初の項を加えることが基本的なアイデアとなる。
関数 \(f\colon \mathbb{R}^{+} \to \mathbb{R}^{+}\) に関する用語1を次のように定める:
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\(f\) が狭義増加 (strictly increasing) \(\,\,\ \ \overset{\text{def}}{\longleftrightarrow}\ \ \) \(x < y \ \ \longrightarrow \ \ f(x) < f(y)\)
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\(f\) が広義増加 (weakly increasing) \(\,\,\ \ \overset{\text{def}}{\longleftrightarrow}\ \ \) \(x < y \ \ \longrightarrow \ \ f(x) \leq f(y)\)
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\(f\) が狭義減少 (strictly decreasing) \(\ \ \overset{\text{def}}{\longleftrightarrow}\ \ \) \(x < y \ \ \longrightarrow \ \ f(x) > f(y)\)
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\(f\) が広義減少 (weakly decreasing) \(\,\ \ \overset{\text{def}}{\longleftrightarrow}\ \ \) \(x < y \ \ \longrightarrow \ \ f(x) \geq f(y)\)
例えば \(2^{x}\) と \(\sqrt{x}\) は狭義増加、\(\max \left\{ x, 2 \right\}\) と \(\lceil x \rceil\) は広義増加、\(1/x\) と \(2^{-x}\) は狭義減少、\(\min \left( 1/x, 1/2 \right)\) と \(\lceil 1 / x \rceil\) は広義減少である。
関数 \(f\colon \mathbb{R}^{+} \to \mathbb{R}^{+}\) に対して、\(S\), \(I\) を次のように定める:
\(f\) が広義増加なら、次の不等式が成り立つ:
同様に、\(f\) が広義減少なら次の不等式が成り立つ:
証明 関数 \(f\colon \mathbb{R}^{+} \to \mathbb{R}^{+}\) が広義増加だと仮定する。幅が \(1\) で高さが \(f(1)\), \(f(2)\), \(\ldots\), \(f(n)\) である \(n\) 個の長方形の面積の和は \(S\) に等しい。これらの長方形を並べた様子を図 \(\text{14.1}\) に示す。
一方で図 \(\text{14.2}\) が示すように、\(\displaystyle I = \int_{1}^{n} f(x) \, dx\) は \(x = 1\), \(x = n\), \(y = 0\), \(y = f(x)\) が囲う領域の面積に等しい。
図 \(\text{14.1}\) と図 \(\text{14.2}\) の斜線領域の面積を比べると、\(S\) は \(I\) に左端の長方形の面積を足した値以上だと分かる。つまり次の不等式が成り立つ:
これは不等式 \(\text{(14.17)}\) にある \(S\) の下界である。
不等式 \(\text{(14.17)}\) にある \(S\) の上界を示すには、曲線 \(y = f(x)\) を \(x\) 方向に \(-1\) だけ移動した曲線 \(y = f(x + 1)\) を考えればよい (図 \(\text{14.3}\))。
図 \(\text{14.1}\) と図 \(\text{14.3}\) の斜線領域の面積を比べると、\(S\) は \(I\) に右端の長方形の面積を足した値以下だと分かる。つまり次の不等式が成り立つ:
これは不等式 \(\text{(14.17)}\) にある \(S\) の上界である。
\(f\) が広義減少のケースも同様の議論で示せる (問題 14.10)。 ■
定理 14.3.2 は多くの総和に対して優れた上界および下界を提供する。真の値との差は最悪の場合でも総和の最も大きな項以下である。
具体的な例として、定理 14.3.2 を次の総和に適用してみよう:
まず、必要になる定積分を計算する:
定理 14.3.2 を適用すると、次の不等式が分かる:
整理すれば次を得る:
つまり、\(S\) は \(\displaystyle \frac{2}{3} n^{3/2}\) に非常に近い。第 14.7 節では、ある値が別の値に「非常に近い」事実を表現するための表記をいくつか定義する。
次節では定理 14.3.2 のさらなる応用として、構造工学に関する古典的問題を解くために定理 14.3.2 を使う例を示す。
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広義増加の関数を非減少 (nondecreasing) の関数と呼ぶこともある。ただ、この呼び方だと「非減少である」と「(狭義または広義) 減少でない」の違い (後者の方が条件として弱い) が分かりにくいので、本書では「狭義増加」を使う。同様に広義減少の関数を非増加 (nonincreasing) の関数と呼ぶこともある。 ↩︎